大会会長挨拶

 IADP第24回年次大会のテーマ は『 レ ジ リ エ ン ス(resilience)』です。レジリエンスは、単に心の機能を回復するプロセスや結果だけではなく、その語源に、「跳ね起きる」という意味を包含し、“ 危 機” に直 面してもなお 、心 の 主 体 性( 自 我 の 自 律 性 )を損なわず、葛藤を回避せずに、現実に向き合おうとする弾力ある心の在り様を示す概念です。

 我々がクライエントの、子どもたちの、病の床にある患者の、児童生徒の、レジリエンスを信頼して声をかける時、初めてお互いの心が揺れ、変化への可能性が開かれていきます。反対に、「(クライエントを)傷つけないように」という名目のもと、専門家自身が、自分が傷つくことを恐れ、揺れることを、揺らすことを回避してしまうと、変化へのルートが閉ざされてしまいます。ともに揺れることになじみ、揺れることで生じるエネルギー(熱)を利用すること、レジリエンスを活用していくことが、発達、成長、変化への第一歩です。

 今大会は、世界文化遺産、霊峰富士のふもと、静岡での開催となります。富士山は、江戸時代中期(宝永7年)の噴火を最後に、300年近く噴火はないものの、一見、穏やかな母のような、あるいは、雄々しい父のような姿の内部に、膨大なエネルギーを内包しています。私の地元は、宝永の噴火によって、火山礫・火山灰が3メートル以上も積り、 一旦は村は全滅したものの、祖先たちの努力の末に、復興を果たした地域です(未だに稲作はできません)。その際、時の郡代 伊那半左衛門忠順公は、自らの命を賭して駿府紺屋町の代官所にあった貯蔵米、一万三千石を無許可で運び出し、貧窮の村々に配布して村民の命を救いました。これらは、私が、幼少期から、繰り返し祖父母から聞かされ、英雄を祀った神社を訪れるたびに、 肌で感じてきた歴史です。

 富士山同様、我々も、心の奥底に多くのエネルギーを蓄え、活用しながら、日々の生活を送っています。火山噴火のような破壊的なエネルギー、愛情を求めるエネルギー、様々なエネルギーを抱いているにも関わらず、何らかの理由で、それが堰き止められ 、表現に、人との関係に紡ぐことが難しくなった人々に我々は出会います。我々が、“ 目の前のクライエントにはエネルギーがある ” と信じれば、できることはたくさんあります。レジリエンスは、目の前の危機や、葛藤から逃げずに戦い続けた結果、積み上げ、獲得していくものです。今大会を、本学会の新たな一歩とすべく、参加者の皆様とともに、3日間、互いのエネルギーをぶつけ合い、熱い時間を共有したいと思います。

 皆様にお会いできることを、心より楽しみにしております。Let’s get rocked!

第 24 回年次大会 大会会長
嶋田 一樹(静岡県立病院機構 静岡県立こども病院)

大 会 会 長プロフィール
静岡県駿東郡小山町出身。心理療法家(資格:臨床心理士)
【専門】
児 童 思 春 期を対 象とした心 理 療 法/プレイセラピー リエゾン心理
PAS心理教育研究所 自我機能鍛錬プログラム(SET)トレーナー
【略歴】
静岡県知的障害者厚生相談所 心理判定員
静岡県藤枝市教育委員会および児童課 心理判定員
現、静岡県立病院機構 静岡県立こども病院 心理療法室 主任